末期肺がんにも効果的な最新カテーテル治療法

肺がん患部に抗がん剤を注入するカテーテル療法

肺がん治療に際して、標準治療(手術、放射線、抗がん剤)では治療効果が得られずに打つ手が無くなった患者は、通常は完治は諦め、痛みと軽減するだけの対症療法へ移行させられることが多い。しかし、まだ治療法は残されているのだ。

ここでは、治療法の無くなった肺がんに対して完治への可能性が期待できるカテーテル療法という治療法を紹介する。

カテーテル療法は、血管内治療の一種であり、正式には「気管支脈内抗癌剤注入療法」と呼ばれる。

がん患部もしくはがんの転移巣への栄養供給源となっている血管(新生血管)を探り当て、その細い血管までカテーテルと呼ばれる細いチューブを送り、がん患部の至近から抗がん剤を注入したり、新生血管を詰まらせ(塞栓)たりしてがんを治療する方法だ。

カテーテル治療の特徴

使用されるカテーテルは、直径1mm以下のマイクロカテーテル。 カテーテルの進入口として、主に太ももの付け根の血管や肘の内側の血管、手首の血管が使われ、治療・手術は局所麻酔で行われるので、痛みも殆どなくがん患者の負担は非常に軽い。

さらに、カテーテル治療の治療対象となるがんを選ばないため、非小細胞がん・小細胞がんのいづれの肺がんにも適用が可能なのだ。転移性肺がんの治療も可能とされている。 肺がんのカテーテル治療は、標準治療を終えた患者も治療できる可能性に加え、患者負担が軽く、リスクが低く、入院期間も短く済むため、高齢者の初期治療としての選択もあるのだ。

カテーテル治療の長所は、下記が挙げられる。

  • 患者の身体への負担が軽い
  • 局所麻酔で治療可なので、全身麻酔が困難な高齢者なども治療ができる
  • 入院が比較的短期間で済む
  • 抗がん剤の量が少なくできるため、副作用リスクと症状も少ない

カテーテル治療の短所は、下記が挙げられる。

  • 治療中に脳梗塞や脳出血を起こすこともある
  • 目的の血管までカテーテルが侵入できない場合は、治療が不可能
  • 長時間の治療は、放射線被爆と副作用の可能性
  • 転移箇所が多過ぎる場合には使えない

カテーテル治療はわずか3~5日

カテーテル治療は標準的には第1日目の検査から わずか3日間で完結する。 一日目に腫瘍血管を捕捉するために、造影剤を使用した3D-CT検査を実施して、3D画像からがん患部へ栄養を供給する新生血管の位置と数を確かめる。 第2目にカテーテル治療を実施し、術後5時間を安静に過ごす。その後、点滴治療によって、抗がん剤や造影剤をできるだけ早く尿として、体外へ排泄させるように努めるのだ。そして、第3, 4日目に採血等で経過観察して退院となる。

実際のカテーテル手術は約2時間

1. 脚の付け根の大腿動脈からカテーテルを挿入し、下行大動脈を遡りながら造影剤を投与する。
2. がん患部へ栄養を供給している血管を造影剤の流れから探し出し、その血管内にカテーテルを挿入し、抗がん剤を少量注入する。

カテーテル手術は「切らない手術」に分類される患者に負担の少ないがん治療だ。実際に体が傷つくのは、部分麻酔の注射と1mmのマイクロカテーテルの挿入穴だけなのだ。手術の負担が軽微であることは、術後の体力や免疫力の低下を最小限にできるために、抗がん剤の効果を最大化できるメリットもあるのだ。

カテーテル治療の実際のがん治療例では、気管支動脈を含めて複数の種々の動脈から抗癌剤を投与しその有効性を報告した論文が複数発表されている。 それぞれ抗がん剤は、点滴治療の2分の1から3分の1程度の少量を、がん細胞に繋がる新生栄養血管から分割して投与する治療が肺がんに対して実施されている。結果として、肺がんに対する一般の抗がん剤点滴治療の奏効率約30%を大きく上回る奏効率53%が報告されており、非常に高い効果が伺える。さらに、抗がん剤点滴に多い嘔吐や脊髄抑制などの副作用は殆ど無いと報告されているのだ。

カテーテル治療の歴史

実は、肺がんに対するカテーテル治療は1980年代に発案され試みられた歴史がある。その際には一部の症例では大きな治療効果が得られた一方で、全は点滴治療を上回る成績は得られず治療法の有効性優位性は実証されなかった。しかし、現代では当時のカテーテル療法には大きな問題点が2点あったことが判明し、充分に改善されたことで治療効果の向上が目覚しい。

過去のカテーテル療法では、がん患部への栄養供給血管として気管支動脈1本だけを対象としていた。しかし、現在では、多くの肺がん、特に進行性の肺がんや転移性肺癌ほどに、複数の血管が栄養血管となっていることが判っている。過去には1箇所だけだったカテーテルによる抗がん剤投与ポイントを、複数の栄養供給血管全てへ拡張されているのが現代のカテーテル療法なのだ。過去には不十分だった抗がん剤の投与効率が飛躍的に向上するのは自然な現象だ。

もう一つの問題点は過去のカテーテル治療では、全身への点滴と同量程度の大量の抗がん剤を1本の気管支動脈に注入したために、注入部位近辺に必要以上の大きなダメージが発生し、複数回の治療が行えなかったのだ。現代のカテーテル治療では、複数の栄養血管へ少量の抗がん剤投与することで充分な治療効果が得られることが既知なので副作用も殆ど無く、複数回の治療による効果の倍増化が可能となっている。

肺がんのカテーテル治療の症例

肺気腫合併肺腺がん(78歳男性)へのカテーテル治療は、 2本の腫瘍血管に総量で全身量の約1/3の抗がん剤を投与した。手術当日から食欲低下もなく、翌日退院、治療1回で腫瘍径が半分以下に縮小した。

カテーテル療法は、局所的な治療であるため、使われる抗がん剤の量が少なく副作用の心配も少ない理に適った方法だが、身体の随所に転移している場合などは使えない。しかし、肺がん末期で、リンパ節転移が確認されている症例に対しても、腹部臓器や脳には転移していない場合には、治療の価値があると判断される場合もある。

カテーテル治療は、非常に理に適った治療法であり見た目は非常にシンプルな施術であるが、見た目以上に血管内治療は医師の技量に負うところが大きい。治療のリスクと改善予想、執刀医の熟練度を総合的に判断して、手術の実施を決めたい新治療法だ。

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