末期の膵臓がんにも有効な新治療法とは

末期の膵臓がんを手術できる新治療法の臨床試験が開始された。

膵臓がんは、発見された時点で末期がんまで進行している症例が85%を超えることから、 非常に危険な種類のがんである。

膵臓がんの問題は、早期発見が難しいことであり、近年には有力な腫瘍マーカーが発見されたことで、 早期発見の有力な手段となりつつあるが、まだまだ開発途上の感が強い。

これまでの膵臓がん治療では、発見された時点で手術可能なステージ3までの膵臓がんは約15%。 つまり、残りの約85%は手術不能とされ抗がん剤しか治療法が選択できなかった。 しかし、新治療法は従来は抗がん剤しか治療選択肢のなかったステージ4Aの膵がんに対しても、手術治療が可能となるのだ。

膵臓がんの新治療法は、『ナノナイフ治療』という。 『ナノナイフ治療』とは、体外から がん細胞へ針(1.1mm径)を刺し、針の先端に短時間だけ3000ボルトの電流を通電させる治療法だ。 通電された細胞には穴が開き中から細胞質が溶け出すことで、細胞死になる。 がん細胞だけでなく正常細胞も壊死してしまうのだが、 血管や胆管の壁自身は膠原線維などの線維でできているので、 血管が破綻して出血したり、胆管に穴が開いて胆汁が漏れ出たりはしない。 がん細胞は壊死すればそれまでだが、血管内皮細胞や胆管粘膜は、2 日~14 日くらいで再生されるため、 患者へのダメージは最小化されているのだ。

膵臓がんのナノナイフ治療には全身麻酔が必要だ。 1.1mm径の太い注射針程の電極針を超音波画像で探りながら、胃や十二指腸を貫通してがん患部近くまで針を通すのだ。 旧来の手術では膵臓の周辺の胃や十二指腸などの臓器が入り組んでいるために、手術が困難だったのだが、 細い針を貫通させることで、複雑な位置のがんに対して治療が可能になっている。

ナノナイフ治療の治療針は がん患部をで取り囲むように設置される。 電気が流れるのは針の先端1.5cmだけで、 対になったプラスの針の先端からマイナスの針の先端へ3000ボルトの高電圧で 1回あたり1万分の1秒という短時間だけ電気が流される。 この通電を80回から160回行うと、 細胞にナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の穴が開く。 これによって、細胞内の細胞質が溶け出し細胞が壊死するのだ。

実際の手術では、3センチの膵臓がんに対して がん患部を取り囲むように2センチの間隔で4本の針が刺されるが、 必要な入院の日数は、10日から2週間程度で済む。

新しいがん治療法のナノナイフ治療の問題点は、通電した範囲のがん細胞だけでなく正常細胞も死滅してしまうことだ。 しかし、そのダメージは小さく、胃や腸の粘膜に潰瘍ができたり膵炎が起きる程度だ。 ナノナイフ治療の術後に入院での安静と絶食が必要なのは、上記のダメージを回復するためで、肝臓がんへのナノサイフ治療よりも少し長くなる。

日本では既に肝臓がんの18例にナノナイフの臨床試験が実施され、その安全性と有効性が確認済みだ。 2015年4月からは対象を拡げ、膵臓がん治療の臨床試験が開始されたのだ。 当初の対象は局所進行性で遠隔転移のないステージ4Aの膵臓がん8例に対して、新治療法が臨床試験される。 既に進行中の6例への治療成果として、「がんが縮小」したことが報告されている。

アメリカでは、ナノナイフ治療が進んでおり2008年から肝臓がん治療に利用されてきた。 その後、膵臓がんにも治療対象を拡大しナノナイフ治療を実施したステージ4Aの膵がん患者は200例になっている。 その中で、50例で がんが縮小し、手術治療が可能となった。 さらに局所のがん再発が3%と少ないことから、がんが発生部位に留まる効果(局所制御能)も認められた。

残りの150例の治療効果では、抗がん剤治療と併用することで約2倍期間の延命効果が確認された。 抗がん剤だけの治療なら12ヶ月だった生存期間が、ナノナイフ治療の併用によって余命が24か月に達したのだ。

新しいがん治療法として世界が注目しているナノナイフ治療は、日本でも導入が期待膨らんでいる。 先行する欧米では肝臓がん、膵臓がんに続き、 肺がんや前立腺がん、腎がんの末期がん治療にも利用される予定で研究が進められている。

末期の膵臓がんに対する新しい治療法の早期普及が望まれている。

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